2010年 11月 26日
コーヒーあれこれ
今日も『河岸忘日抄』より。
 ほほう、これがそのガラパゴスかね、と大家は世話役の女性が淹れてくれた彼の手土産をちょっとだけ含んでその香りをしばし味わってから、濃い茶色の唾液を勢いよく飛ばして、なかなかいい、これまで知らずにいたのがもったいないような、不思議な味わいだな、甘くて、こくがあって、ほんの少し苦みと酸味もある、果物の味も混じってるようだが、きみは、どう思うね? 芳醇な赤ワインのようじゃないか、ありがたく頂戴しておこう。だが、ひとつ、訊いておきたいことがある。なんでしょう?と彼は老人の耳もとで大きく応えて身構える。この豆は、はるかガラパゴスの島から、どうやって運ばれてくるんだね、麻袋か、樽か、どっちだ? わかりません、と彼は正直に応えた。(97頁)
私はコーヒーには砂糖もミルクも入れるのだが、上に引いたように、『河岸忘日抄』の主人公がガラパゴス島で採れたコーヒー豆を、借りている「家」の大家に贈りものとして贈るという場面を読んで、妙においしそうなので、それが影響してかどうか、昨日からブラックでコーヒーを飲み始めた。心なしか、私の飲むコーヒーからも果物の香りがしてくるように感じる。

しかし、ブラックといっても、私はミルクは入れる。ミルクが入っていても砂糖が入っていなければそれをブラックと称するのは日本だけなのか。たしかに、砂糖もミルクも入れたコーヒーだけを飲み続けてきた私にとっては、「ブラック」というのは「甘くない」ということと同義で、ミルクが入っていてもいっこうに構わない。英語の辞典で black を引くと、without milk とあった。欧米では、砂糖が入っていてもミルクが入っていなければブラックのようだ。日本と逆なのがおもしろい。

さて、そんな感じで「ブラック」な路線をしばらくは貫こうとおもっていたので、今日は職場で飲む自販機の缶コーヒーも無糖にしてみたが、果物の香りがまったくせず、ちょっと鼻白む。ぜんぜんガラパゴスな感じがしない。缶の形はちゃんと樽の形をしているのになあ。惜しい。結局、カフェオレをそのあと飲んでしまった。

ところで、ミルクといえば、スチュアート・ダイベックの短篇「ペット・ミルク」を思い出す。
Today I've been drinking instant coffee and Pet milk, and watching it snow. It's not that I enjoy the taste especially, but I like the way Pet milk swirls in the coffee. Actually, my favorite thing about Pet milk is what the can opener does to the top of the can. The can is unmistakable — compact, seamless looking, its very shape suggesting that it could condense milk without any trouble. The can opener bites in neatly, and the thick liquid spills from the triangular gouge with a different look and viscosity than milk. Pet milk isn't real milk. The color's off, to start with. My grandmother always drank it in her coffee. When friends dropped over and sat around the kitchen table, my grandma would ask, "Do you take cream and sugar?" Pet milk was the cream.
ネトッとしたペット・ミルクの質感が手に取るようにわかるすばらしい書き出しだ。ついつい練乳を連想してしまうが、さすがに練乳はコーヒーに入れないだろうなあ。ちなみに、ダイベック自身によるこの短篇の朗読を、『柴田元幸 ハイブ・リット』(アルク)で聴くことができる。
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by anglophile | 2010-11-26 16:43 | 読書 | Comments(0)


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