2010年 11月 09日
グレアム・スウィフト 「テッドと釣りに行った話」   
グレアム・スウィフトのエッセイ集 Making an Elephant からまた1つ紹介しておこう(たぶんこれで最後)。前回のカズオ・イシグロの話もそうだったが、このエッセイ集には比較的親しかった作家仲間との交流がいくつか描かれており、そういう作家たちとどういう仲なのかが読んでいるとわかって愉しい。

今回取り上げるのは、"Fishing with Ted: Devon, 1998" というエッセイ。Ted とは、英国の桂冠詩人テッド・ヒューズのこと。よく知られているように、テッド・ヒューズはアメリカの詩人シルヴィア・プラスのかつての夫だった。2人はシルヴィアがケンブリッジ留学中に知り合い、1956年に結婚した。しかし、あまり幸せな結婚生活は続かなかったようで、不仲のなか、1963年にシルヴィアが自殺。当時は、いろいろと騒がれ、ヒューズも相当に辛い時期をすごしたようだ。1998年に、ヒューズはシルヴィアへの昔年の想いを綴った詩集 Birthday Letters を出版。その後すぐにヒューズは亡くなる。享年68、先月28日が彼の命日だった。

さて、スウィフトは作家デビューまもない1980年代前半に、少年のころに趣味だった釣りを再び始めたようだ。そして、年に数回、ロンドン西方のデヴォンシャーにあるトリッジ川で川釣りを楽しむようになる。一方、ヒューズも同じ川で釣りをすることが多かったらしく、やがて共通の知人を通して2人は知り合うことになる。しかし、あくまで釣り仲間としてであって、それ以上のつきあいはなかったようだ。

ヒューズはスウィフトより19歳年上で、すでにイギリスを代表する詩人のひとりであった。スウィフトは10代前半に学校の国語の教科書でヒューズの詩に初めて出会ったらしい。やがて教科書に出ていたこの偉大な詩人と釣り仲間になるだろうとは夢にもおもわなかったことだろう。なかなかドラマチックな話だ。ちなみに、そのときに学校の先生が教室で朗読した詩が"Pike" という詩だった。pike が何かわからなかったので、辞書を調べたら「カワカマス」とあった。大型の淡水魚らしい。スウィフトのこのエッセイでは、このカワカマスが自分と詩人をつなぐ1つのシンボルになっている。

ある日、ヒューズと共通の友人とともにトリッジ川に釣りに出かけた。そのときスウィフトはかなり大型のサケを引っかけたようだが残念ながらバラしてしまう。しかしそのあとにもう1度サケがかかり、今度はうまく釣り上げることができた。そのときに網でサケをすくってくれたのがヒューズだったが、そのサケと一緒にすくい上げた砂利のなかにカワカマスの頭部の骨(the skull of a pike)があったのだ。ヒューズはこの日の思い出の記念にとそれをスウィフトに手渡す。学校時代に "Pike" という詩でヒューズを知り、作家になってからたまたま釣り仲間となったこの詩人から、今度は pike (カワカマス)の骨を贈られた。ただそれだけの話なのだが、スウィフトには忘れられない思い出になっているという。ヒューズがこの世を去ったのは、それからしばらく経ったあとだったらしい。佳話である。

YouTube にヒューズ自身が朗読している"Pike" の音声があったので貼っておこう。


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by anglophile | 2010-11-09 20:55 | 読書 | Comments(0)


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