タグ:日本文学 ( 30 ) タグの人気記事

2015年 01月 25日
雨上りの潦
c0213681_1543123.jpg4日前に読みはじめた瀧井孝作「松島秋色」はわずか40ページの短編なのに、内容が地味すぎて、いやシブすぎて、まだ12ページしか読めていない。己の遅読ぶりに落胆しながらも、ある素敵な言葉に出会えたことを喜んでいる。松島を訪れた瀧井は、途中、旅の目当てのひとつだった塩竈神社を訪れようとするが、時雨が止んだのちの描写に、「道路は、雨上りの潦、ぬかるみも見え、歩きにくかったが、~」(『現代短編名作選③』、328頁)というのがあった。「潦」という言葉。「にわたずみ」と読む。いいですねえ。枕詞にもなっているとか。さすが瀧井孝作、といったところでしょうか。宝物を手に入れたような幸福感に満たされると、ブックオフにでも行ってみようかという気持ちになりますね。ならない?

・バーニー・ホスキンズ 『流れ者のブルース ザ・バンド』 (大栄出版)
・レイ・ブラッドベリ 『黒いカーニバル』 (ハヤカワ文庫)
・ブルース・スターリング 『スキズマトリックス』 (同上)
・アーサー・マッケン 『夢の丘』 (創元推理文庫)
・マーガレット・ミラー 『マーメイド』 (同上)

ザ・バンドの評伝が手に入ったのがうれしい。半額シールの上に108円シールが貼ってあったから、最近まで半額棚にあったのだろうか。棚をよく見ていなかったなあ。この本なら半額でも買っていただろう。ちょっとずつ読んでいきたい。マッケンの『夢の丘』には「紙魚の手帖」という折り込み小冊子が挟まっていた。得した気分。こういうのはまとめて読んでみたいなあ。きっと集めている人もいるのだと思う。
[PR]

by anglophile | 2015-01-25 22:43 | 古本 | Comments(4)
2014年 12月 31日
忘れられない文章
c0213681_010305.jpg

夏の初め頃、職場でたまたま開いた毎日新聞に、松家仁之さんの「読書日記」が掲載されているのを見つけた。ときどき日曜の読書欄は見ることはあるけど、平日にこういった読書関連の記事が載っているなんて知らなかったなあ。このとき見つけなければたぶんその後も見つけられなかっただろう。

2009年に大学で教えはじめた松家さんは、文章技法の授業を受ける学生に読んでもらうエッセイの書き手を選ぶことにした。選定基準は「その人の人生観が色濃くにじむ文章であること。固有の文体があること。書き手の生涯を振りかえりうること、即ち物故者であること。そして何より自分がこれまで何度となく読み返した人であること」の4点。そうして選んだのが、向田邦子、伊丹十三、殿山泰司、色川武大、星野道夫、須賀敦子の6人だった。う、うらやましい。このときの日記には、学生たち全員と須賀敦子の『ヴェネツィアの宿』を読んだ話が紹介されていた。とても素敵な文章で、一読して感銘を受けた。この一年で読むことができて一番うれしかった文章だったと思う。

これを読んで、須賀敦子を読みたくならないほうが難しく、やがて私も『ヴェネツィアの宿』(文春文庫)をゆるりと読みはじめたのだった。表題作より。
ここにある西洋の過去にもつながらず、故国の現在にも受け入れられていない自分は、いったい、どこを目指して歩けばよいのか。ふたつの国、ふたつの言葉の谷間にはさまってもがいていたあのころは、どこを向いても厚い壁ばかりのようで、ただ、からだをちぢこませて、時の過ぎるのを待つことしかできないでいた。(「ヴェネツィアの宿」、15頁)
「読書日記」には、主に最終章「オリエント・エクスプレス」のことが書かれていて、これを読んだ学生たちの反応はよく、「全身全霊で書かれた文章は、ほぼあやまたず読み手に届くと知った」と松家さんは書いていた。この一文はずっと心に留めておきたい。そうして私も途中の何編かをすっ飛ばして「オリエント・エクスプレス」を読んでみた。有名な結末部より、例えば次のような箇所が好き。
ローマから持ってきた本を読みあきると、ベッドのわきの本棚に、ひと通りはそろっていたイギリスの古典のページをめくったり、友人たちに手紙を書いたり、はては、散歩をしていてなんとなく目のまえで停まったバスに行き先もたしかめないで乗りこみ、人気のない広場がぽつんとあるだけの終点まで行ってみたり、そして、博物館やギャラリーに出かける日もあった。一年暮らすうちに知人が増えてしまったローマとはちがって、人間関係のほとんどないロンドンにいると、内面の自分がのびのびとしているようで、それが淋しいときもあったけれど、大体としてはしずかな、満ち足りた時間をすごしていた。たえず自分というものを、周囲にむかってはっきりと定義し、それを表現しつづけなければならない大陸と違って、暗黙の了解のなかで相手の領域を犯さない、他人を他人としてほうっておいてくれる英国人の生き方は気のやすまるものだった。(「オリエント・エクスプレス」、269頁)
秋口になり、『重力の虹』強化月間に突入すると、いったん須賀敦子から離れ、どっぷりとピンチョン節につかった。11月下旬、長い虹の旅が終わると、『ヴェネツィアの宿』には直行せず、積んだままになっていた『火山のふもとで』(新潮社)を繙いた。これがまた間然する所のない傑作でびっくりした。

読みはじめてからすでに数ヶ月が経っていた『ヴェネツィアの宿』にようやく戻り、残っていた「レーニ街の家」から「アスフォデロの野をわたって」までを読んだ。どれも粒ぞろい。その中で、心に一番ズキュンと響いたのはカティアの言葉。
ゆっくり本を読んだり、人生について真剣に考える時間がほしかったので、仕事をやめてフランスに来た、と彼女はひと息に話した。初対面とは思えない率直さだった。ここに来るために、戦後すぐに勤めはじめた、アーヘンの公立中学校の先生をやめてしまったという。しばらくパリに滞在して、宗教とか、哲学とか、自分がそんなことにどうかかわるべきかを知りたい。いまここでゆっくり考えておかないと、うっかり人生がすぎてしまうようでこわくなったのよ。(「カティアが歩いた道」、209頁)
たぶん、カティアのような人は、ヨーロッパではさほど珍しくないはず。イギリスにいたときに、まだ20代の自分たちにまじって40歳ぐらいの男性が同じ学科で学んでいて、よく一緒に酒を飲んだ。他にも家庭を持っていると思われるおばさんたちが何人かいた。そういうずっと年上の人たちの生き方や学び方を見て新鮮に感じたものだ。彼ら彼女らにも「うっかり人生がすぎてしまう」という感覚があったのかどうか。

松家さんの「読書日記」から須賀敦子『ヴェネツィアの宿』へ。ピンチョンを挟んで松家さんの小説、そして最後は『ヴェネツィアの宿』で締めくくった今年の読書。そのあいだ、職場ではあれやこれやで悶々としていたのを思い出す。ただ、これら数冊の本をゆっくりと読み継ぐことだけが少しだけ歩を前に進めていく助けとなっていた。
[PR]

by anglophile | 2014-12-31 23:05 | 読書 | Comments(0)
2014年 12月 14日
雪降る午後
思ったほどの大雪にならず、なんだよ予報には「暴風雪」と書いてあったじゃないかあ、とちょっと落胆しながら、今朝は『名短篇 新潮創刊一〇〇周年記念 通巻一二〇〇号記念』(新潮社)に収められている川崎長太郎「ひかげ咲き」を読んだのだった。まさに「名短篇」の名にふさわしい短篇だった。

午後の遅い時間に、妻に頼まれ、灯油を調達しに出たはずだったが、そんな生活必需品はあとまわしにして、本屋に行ってしまう。「休日」と「外出」という条件が重なると、本を買いに行かずにはおれない。どうも優先順位の立て方がおかしい、とわかってはいるがコントロールができない。

川崎長太郎の文庫が先月出ていたはずなので、柿木畠のうつのみや本店に買いに行くことにする。いつも店前の駐車場に車を止めるのだが、今日は雪が降っていて駐車場の係のおじさんがいないので、そのままいつものスペースに止めさせてもらう。1階で別の購入予定本である諏訪哲史『偏愛蔵書室』(国書刊行会)を探すが見当たらない。他の大型書店には置いてなくて、うつのみやなら、と思ったが、ここにも置いてなかった。うう、残念。1階の隅にある国書刊行会スペース自体がなくなっていたのでむしろそのことのほうが残念。次に文庫を見に、エレベーターで2階へ。いろいろと見てまわって、お目当ての川崎長太郎『泡/裸木 川崎長太郎花街小説集』(講談社文芸文庫)と、その他に林望『増補 書藪巡歴』(ちくま文庫)と円城塔『バナナ剥きには最適の日々』(ハヤカワ文庫)も買うことにする。無論、3冊とも帯付である。『書藪巡歴』はどう考えてもおもしろそう。以前は新潮文庫に入っていたということだが知らなかったなあ。あと、ハヤカワ文庫のカバーデザインには垢抜けた感じがあって無視できないものがある。

c0213681_2345044.jpgこのあと、新竪に移ったらしいオヨヨ書林に行くつもりだったが、予定を変更して久しぶりにせせらぎさんに行ってみることにした。もう日は落ちている。店内に入っていき、せせらぎさんにご挨拶。何人かお客さんがいた。店内の棚の配置などが以前と少し変わっていて、前は入り口左のスペースにあった文庫棚が店内右奥にあった。その文庫棚で、未所持だった楠見朋彦『塚本邦雄の青春』(ウェッジ文庫)を見つける。500円だったが帯付だったので買うことにする。その横の外国文学棚には、『ユリイカ』のピンチョン特集号が300円であった。もう持っているので自制したが、昔なら買っていただろう。この中に収められているピンチョンがとある学生に宛てて書いた手紙(アフリカのホッテントット族に関する内容)はピンチョン関連の必読文献である。

さて、店内中央には以前はなかった本棚もあり、ペーパーバックとか古本関連本などが並べられていて、そこで古本アンテナが黒いハードカバーの本に反応した。取り出してみると、それは『書影でたどる関西の出版100 明治・大正・昭和の珍本稀書』(創元社)だった。ずっと前に善行堂で山本さんに見せてもらったことがあった。表紙が片側だけ貼り付けになっていて開きやすくなっているのだ。高価な本だから今まで購入できずにいた。やっぱり安くはないだろうなあと思って値札を見たら、予想を上回る安さに思わず「うおっ!」と驚きの小声を上げてしまった。したが、すぐにその理由がわかった。函欠ということもあるのだろうが、そういうことだったのかあ。ま、でも納得して購入することができた。ふんだんに掲載されている書影は見ていて飽きない。

帰り道、あやうく灯油を買い忘れるところだった。
[PR]

by anglophile | 2014-12-14 21:50 | 古本 | Comments(0)
2014年 09月 11日
大江健三郎自選短篇
c0213681_3211336.jpg

岩波文庫から出た分厚い『大江健三郎自選短篇』をぽつぽつと読み始めている。初期短篇の乾いた味わいが心にしみ入る。そんな折、古本屋で『死者の奢り』の単行本を見つけた。カバーの状態からずいぶんと古い版だなあと思って奥付を見てみると、これがまさかの初版(昭和33年3月10日発行)であった。
[PR]

by anglophile | 2014-09-11 23:18 | 読書 | Comments(0)
2012年 05月 25日
Monkey Business International
昨年休刊となった柴田元幸責任編集『monkey business』の海外(英語)版が現在のところ第2号まで出ている。第2号は今月出たようだ。備忘録として、目次をここに貼っておく。

<Issue 1 Table of Contents>

Monsters: a short story by Hideo Furukawa (translated by Michael Emmerich)

People from My Neighborhood: a collection of vignettes by Hiromi Kawakami (translated by Ted Goossen)

The Sleep Division: a poem by Mina Ishikawa (translated by Ted Goossen)

Sandy’s Lament: a short story by Atsushi Nakajima (translated by M. Cody Poulton)

Song, The Old Way, and Bougainvillea: stories by Barry Yourgrau

The Tale of the House of Physics: a short story by Yoko Ogawa (translated by Ted Goossen)

Pursuing “Growth”: an interview with Haruki Murakami by Hideo Furukawa (translated by Ted Goossen)

Interviews with the Heroes, or Is Baseball Just for Fun?: a poem by Inuo Taguchi (translated by Ted Goossen)

A Country Doctor: a manga by the Brother and Sister Nishioka, based on the story by Franz Kafka (translated by J. A. Underwood)

Closet LLB: a short story by Koji Uno (translated by Jay Rubin)

When Monkeys Sing: a poem by Masayo Koike (translated by Ted Goossen)

Monkey Tanka: a poem by Shion Mizuhara (translated by Ted Goossen)

Monkey Haiku: a poem by Minoru Ozawa (translated by Ted Goossen)

The Forbidden Diary: an excerpt from a fictional diary by Sachiko Kishimoto (translated by Ted Goossen)


<Issue 2 Table of Contents>

What Do You Wish We Had in Japan Today? 17 writers and artists respond (translated by Paul Warham and Stephen Snyder)

I Chase the Monkey and the Monkey Flees from Me, the Monkey Chases Me and I Flee from the Monkey: a short story by Masatsugu Ono (translated by Michael Emmerich)

Tales in Tanka: poems by Mina Ishikawa (translated by Motoyuki Shibata and Ted Goossen)

Meditations on Green: a short story by Toh EnJoe (translated by David Boyd)

At the Delta: a short story by Rebecca Brown

The Great Cycle of Storytelling: an essay by Haruki Murakami (translated by Ted Goossen)

A Once-Perfect Day for Bananafish: a prose poem by Mieko Kawakami (translated by Hitomi Yoshio)

Nowhere: a poem by Stuart Dybek

People from My Neighborhood (Part 2): a collection of vignettes by Hiromi Kawakami (translated by Ted Goossen)

A Fasting-Artist: a manga by the Brother and Sister Nishioka, based on the story by Franz Kafka (translated by J. A. Underwood)

Ghosts and Ghost Paintings: haiku by Minoru Ozawa (translated by Motoyuki Shibata and Ted Goossen)

Bridges: a short story by Keita Jin (translated by Allison Markin Powell)

Breathing Through Gills: a short story by Hideo Furukawa (translated by Ryan Shaldjian Morrison)

Sleepyville: a short story by Mimei Ogawa (translated by James Dorsey)

The Seaside Road: a short story by Tomoka Shibasaki (translated by Ted Goossen)

The Futon of Tottori: a manga by Fumiko Takano, based on the short story by Lafcadio Hearn

Medicine: a short story by Barry Yourgrau

Mr. English: a short story by Keita Genji (translated by Jay Rubin)

What’s Eating Soichiro Mogi: an essay by Naoyuki Ii (translated by David Boyd)

John: a short story by Yoko Hayasuke (translated by Hanae Nishida Vuichard)

The Forbidden Diary (Part 2): an excerpt from a fictional diary by Sachiko Kishimoto (translated by Ted Goossen)

Black Space, the Sound of Rain: a short story by Comes in a Box (translated by M. Cody Poulton)

第2号は日本のアマゾンでも買えるようだ。日本版の内容とどれくらい重複しているのかはまだ調べていない。
[PR]

by anglophile | 2012-05-25 23:40 | 読書 | Comments(2)
2011年 07月 10日
桃仙人再登場
今日も猛暑。息子と二人でブなどへ。カードゲームのカードがほしいのだそうだ。望むところである。

・嵐山光三郎 『桃仙人 小説 深沢七郎』 (ランダムハウス講談社文庫)
・赤瀬川原平 『学術小説 外骨という人がいた!』 (ちくま文庫)
・池田満寿夫 『模倣と創造』 (中公文庫)
・高橋啓介 『珍本古書』 (保育社カラーブックス)

数ヶ月前にちくま文庫版の『桃仙人』を見かけたことがあったが、そのときはさして気にもとめずスルーしてしまった。その後、自分の愚かさに気づかず、のほほ~んとしていたら、ちょうど読み始めたばかりの『おかしな本棚』に桃仙人が登場し狼狽えた。「とっておきの本棚」の一冊として紹介されていたからだ。頭をぽかぽかやって、天を仰いだ。数日後、桃仙人の捕獲に向かったが、桃仙人はもういなかった。

今日登場した桃仙人はランダムハウス講談社文庫版。これには、絶版のちくま文庫版にはないさらなる書き下ろしのあとがき「あとあとがき・その後の『桃仙人』」が付いている。『おかしな本棚』に写っているのはちくま文庫版なので、ほんとはちくま文庫版がほしいところだが、この「あとあとがき」があるのでこれでよしとする。
 深沢七郎さんが没してから、二十一年がたってしまった。二十一年前には深沢さんの小説やエッセイ集が書店にいっぱい並んでいたが、いまは、そのほとんどが絶版になっている。
 深沢七郎の名は、一部の文学愛好家のみの記憶にとどめられるようになった。(170頁)
ぱらぱらとめくってみたら、桃仙人が川端康成文学賞を辞退したときの話などが載っていて興味深い。もうすぐ(?)読み終わる旋毛曲りの本の次に読むことにしよう。

c0213681_2320343.jpg

[PR]

by anglophile | 2011-07-10 23:40 | 古本 | Comments(0)
2011年 05月 10日
加能作次郎―もうひとりの秋聲
c0213681_2081074.jpg

書店に行ったらこのチラシが置かれていたのでもらってきた。額に入れて飾っておきたいほどの清冽なデザインである。6月18日には、加能作次郎の会会長による記念講演「加能作次郎の人と文学」が催される。これはぜひ行かねばならない。

気分が一新されたので、金欠ながら古本も少々。

・舟越保武 『巨岩と花びら―舟越保武画文集』 (ちくま文庫)
・神保光太郎編 『津村信夫詩集』 (新装版、白凰社)

合計260円也。
[PR]

by anglophile | 2011-05-10 21:00 | 古本 | Comments(0)
2011年 04月 29日
今日の105円棚
・小松左京 『役に立つハエ 小松左京ショートショート全集③』 (ハルキ文庫)
・筒井康隆編 『’71日本SFベスト集成』 (徳間文庫)
・香老舗松栄堂広報室編 『王朝の香り 現代の源氏物語絵とエッセイ』 (青幻舎)
・諏訪優訳編 『ギンズバーグ詩集 増補改訂版』 (思潮社)

最近ちょっとばかし注目しているハルキ文庫。「全集③」とあったので、じゃあ①とか②とかも集めてみたくなるじゃないですか。で、ショートショートだから星新一だとおもっていたら、実は小松左京だったというオチ。これでは古本検定10級も受からないな。

『王朝の香り』は、小ぶりなのにちょっとした重量感が魅力的な京都書院アーツコレクションに入っているものの新装版。この中に片岡義男のエッセイ「英語で読む源氏」が入っていたので興味を惹かれた。わずか3ページのエッセイだがピリッとしていてよい。
 日本に関する多くのことについて、僕は英語をとおして学んだ。英語をとおしてとは、抽象化して、と言いかえてもいい。そしてさらに、抽象化してとは、余計な邪魔者なしに、と言いかえることが出来る。
 たとえば、『源氏物語』に関して、邪魔になるものと言えば、「紫式部」「日本そして世界初の長編小説」「光源氏」「平安時代」「宮廷生活」といった日本語だ。このような単語は、すべて、大学入学試験につながった高等学校の国語の授業を僕に連想させ、『源氏物語』とのあいだに距離を作ってしまう。と同時に、いま列挙したような言葉をつないでいくと、『源氏物語』に関しての、きわめて皮相的で陳腐な理解が頭のなかに出来てしまい、それもまた真の『源氏物語』から僕を遠ざける。
 すべてが英語になってしまうと、以上のようなかたちでの邪魔をされることなしに、『源氏物語』というものの理解の深みへ、僕は到達することが出来る。(185頁)
 日本についてなにごともいちばんよく知っているのは日本人である我々だ、という凡庸な確信のなかに、圧倒的多数の日本人たちは生きている。その日本人が日本語で読めば、なにについてであれ、たちどころに真の正しい理解を手に入れるはずだという単なる思いこみのなかで、じつはおそろし皮相的で悲劇的なまでに陳腐な理解というものの表面をただ撫でているだけにしか過ぎないことに、その圧倒的に多くの人たちはいつまでも気づかない。
 日本のあらゆることがらに関して、きわめて正しくてしかも深い理解を、英語だけをとおして手に入れることは完璧に可能だ。日本に関して、日本語を経由せずに到達する理解の深度というものが、日本語の外の世界に確実に存在している。(186-7頁)
「完璧に可能だ」と言い切れるところがすごい。このエッセイが収められているのと収められていないのとでは、この本の価値は大きく変わるだろうとおもう。
[PR]

by anglophile | 2011-04-29 22:52 | 古本 | Comments(2)
2011年 04月 12日
『北國文華 2011年春 第47号』
仕事のあと、新刊書店へ。気になったものを、まとめて、目を瞑って、レジに差し出す。

・穂村弘 『短歌の友人』 (河出文庫)
・佐藤泰志 『そこのみにて光輝く』 (同上)
・佐藤泰志 『移動動物園』 (小学館文庫)
・『新潮 2011年5月号』 (新潮社)
・『北國文華 2011年春 第47号』 (北國新聞社)

『新潮』は久しぶりにCD付き。なんだか貴重そうなので買っておく。地元新聞社発行の『北國文華』は、金沢にいればいろんなところで目にする(喫茶店なんかにも置いてあったりする)が、これまで買ったことはなかった。今回は特集記事が充実していて、立ち読みできる分量ではなさそうだったので、思い切って買ってしまった。1600円もするんですね、この雑誌!

c0213681_23101185.jpg

本日の一言:「よけいなことだが、この鼎談で島田氏はしゃべり過ぎである。」
[PR]

by anglophile | 2011-04-12 23:20 | 読書 | Comments(0)
2011年 03月 07日
『戦争×文学』試し読み
帰りに、文芸文庫を3冊ばかし。

・中原中也 『中原中也全訳詩集』 (講談社文芸文庫)
・倉橋由美子 『反悲劇』 (同上)
・阿部昭 『大いなる日/司令の休暇』 (同上)

しめて760円也。

そのあと新刊書店にも寄ったのだけど、全集物の『戦争×文学』(集英社)の新しいパンフレット(前のよりもページ数が増えてより詳しい内容がわかる)と「試し読み」用冊子みたいなのがあって、またまたもらってきた。なんだか力の入れようが尋常じゃないかも。「試し読み」用の冊子なんて初めて見た。

c0213681_17374617.jpg

大きさはB6より少し大きい感じ。中身は、第1回配本の第8巻『アジア太平洋戦争』の最初の60頁ほどが載っている。したがって、太宰の「待つ」、上林暁の「歴史の日」、高村光太郎の「十二月八日の記」がまるごと読めるようになっている。なんか得した感じである。

あと、例えば、第5巻の『イマジネーションの戦争』には、伊藤計劃の「The Indifference Engine」なんてのも入っていて興味深い。
[PR]

by anglophile | 2011-03-07 17:47 | 読書 | Comments(0)