<   2014年 12月 ( 6 )   > この月の画像一覧

2014年 12月 31日
忘れられない文章
c0213681_010305.jpg

夏の初め頃、職場でたまたま開いた毎日新聞に、松家仁之さんの「読書日記」が掲載されているのを見つけた。ときどき日曜の読書欄は見ることはあるけど、平日にこういった読書関連の記事が載っているなんて知らなかったなあ。このとき見つけなければたぶんその後も見つけられなかっただろう。

2009年に大学で教えはじめた松家さんは、文章技法の授業を受ける学生に読んでもらうエッセイの書き手を選ぶことにした。選定基準は「その人の人生観が色濃くにじむ文章であること。固有の文体があること。書き手の生涯を振りかえりうること、即ち物故者であること。そして何より自分がこれまで何度となく読み返した人であること」の4点。そうして選んだのが、向田邦子、伊丹十三、殿山泰司、色川武大、星野道夫、須賀敦子の6人だった。う、うらやましい。このときの日記には、学生たち全員と須賀敦子の『ヴェネツィアの宿』を読んだ話が紹介されていた。とても素敵な文章で、一読して感銘を受けた。この一年で読むことができて一番うれしかった文章だったと思う。

これを読んで、須賀敦子を読みたくならないほうが難しく、やがて私も『ヴェネツィアの宿』(文春文庫)をゆるりと読みはじめたのだった。表題作より。
ここにある西洋の過去にもつながらず、故国の現在にも受け入れられていない自分は、いったい、どこを目指して歩けばよいのか。ふたつの国、ふたつの言葉の谷間にはさまってもがいていたあのころは、どこを向いても厚い壁ばかりのようで、ただ、からだをちぢこませて、時の過ぎるのを待つことしかできないでいた。(「ヴェネツィアの宿」、15頁)
「読書日記」には、主に最終章「オリエント・エクスプレス」のことが書かれていて、これを読んだ学生たちの反応はよく、「全身全霊で書かれた文章は、ほぼあやまたず読み手に届くと知った」と松家さんは書いていた。この一文はずっと心に留めておきたい。そうして私も途中の何編かをすっ飛ばして「オリエント・エクスプレス」を読んでみた。有名な結末部より、例えば次のような箇所が好き。
ローマから持ってきた本を読みあきると、ベッドのわきの本棚に、ひと通りはそろっていたイギリスの古典のページをめくったり、友人たちに手紙を書いたり、はては、散歩をしていてなんとなく目のまえで停まったバスに行き先もたしかめないで乗りこみ、人気のない広場がぽつんとあるだけの終点まで行ってみたり、そして、博物館やギャラリーに出かける日もあった。一年暮らすうちに知人が増えてしまったローマとはちがって、人間関係のほとんどないロンドンにいると、内面の自分がのびのびとしているようで、それが淋しいときもあったけれど、大体としてはしずかな、満ち足りた時間をすごしていた。たえず自分というものを、周囲にむかってはっきりと定義し、それを表現しつづけなければならない大陸と違って、暗黙の了解のなかで相手の領域を犯さない、他人を他人としてほうっておいてくれる英国人の生き方は気のやすまるものだった。(「オリエント・エクスプレス」、269頁)
秋口になり、『重力の虹』強化月間に突入すると、いったん須賀敦子から離れ、どっぷりとピンチョン節につかった。11月下旬、長い虹の旅が終わると、『ヴェネツィアの宿』には直行せず、積んだままになっていた『火山のふもとで』(新潮社)を繙いた。これがまた間然する所のない傑作でびっくりした。

読みはじめてからすでに数ヶ月が経っていた『ヴェネツィアの宿』にようやく戻り、残っていた「レーニ街の家」から「アスフォデロの野をわたって」までを読んだ。どれも粒ぞろい。その中で、心に一番ズキュンと響いたのはカティアの言葉。
ゆっくり本を読んだり、人生について真剣に考える時間がほしかったので、仕事をやめてフランスに来た、と彼女はひと息に話した。初対面とは思えない率直さだった。ここに来るために、戦後すぐに勤めはじめた、アーヘンの公立中学校の先生をやめてしまったという。しばらくパリに滞在して、宗教とか、哲学とか、自分がそんなことにどうかかわるべきかを知りたい。いまここでゆっくり考えておかないと、うっかり人生がすぎてしまうようでこわくなったのよ。(「カティアが歩いた道」、209頁)
たぶん、カティアのような人は、ヨーロッパではさほど珍しくないはず。イギリスにいたときに、まだ20代の自分たちにまじって40歳ぐらいの男性が同じ学科で学んでいて、よく一緒に酒を飲んだ。他にも家庭を持っていると思われるおばさんたちが何人かいた。そういうずっと年上の人たちの生き方や学び方を見て新鮮に感じたものだ。彼ら彼女らにも「うっかり人生がすぎてしまう」という感覚があったのかどうか。

松家さんの「読書日記」から須賀敦子『ヴェネツィアの宿』へ。ピンチョンを挟んで松家さんの小説、そして最後は『ヴェネツィアの宿』で締めくくった今年の読書。そのあいだ、職場ではあれやこれやで悶々としていたのを思い出す。ただ、これら数冊の本をゆっくりと読み継ぐことだけが少しだけ歩を前に進めていく助けとなっていた。
[PR]

by anglophile | 2014-12-31 23:05 | 読書 | Comments(0)
2014年 12月 27日
今日の古本
c0213681_22193132.jpg仕事で奥能登未踏の地へ。同じ漁師町でも、富来とはまたちがう雰囲気のある町だった。田舎はやっぱりいいなあとあらためて思った。帰りにもれなく七尾のブックオフに寄る。先月来たときはぱっとしなかったが、今日は大漁なり。漁師町からの帰りだからか。まさに、お好みの本、入荷してました。すべて108円。

・綱淵謙錠 『斬』 (文春文庫)
・円城塔 『オブ・ザ・ベースボール』 (文春文庫)
・円城塔 『Self-Reference ENGINE』 (ハヤカワ文庫)
・円城塔 『後藤さんのこと』 (ハヤカワ文庫)
・日本SF作家クラブ編 『日本SF短篇50 volume 1』 (ハヤカワ文庫)
・J・G・バラード 『ハイ-ライズ』 (ハヤカワ文庫)
・メイ・シンクレア 『胸の火は消えず』 (創元推理文庫)
・赤江瀑 『自選恐怖小説集 夜叉の舌』 (角川ホラー文庫)
・桜庭一樹 『お好みの本、入荷しました 桜庭一樹読書日記』 (東京創元社)

『斬』はダブりなのに、新装版ということで買ってしまう。修行が足りない。でも、円城塔が3冊買えたのはうれしい。『後藤さんのこと』の「後藤さん一般」というのが笑える。モンティ・パイソンに「ブルース」というスケッチがあるが、あれを思い出した。
[PR]

by anglophile | 2014-12-27 22:22 | 古本 | Comments(6)
2014年 12月 23日
第33回 金沢一箱古本市@よこっちょ
c0213681_12132271.jpg日曜日は今年最後となる一箱古本市があった。12月に開催というのはかなりの冒険だったのだろう。悪天候を見越してだと思うが、今回は金澤表参道の中ほどにある「いちょう館」という建物内の3階で行われた。予想通りというか、あいにくの雨で、さすがに通りは人もまばらだった。いちょう館前のテントにいらしたカルロスさんにご挨拶してから、建物内へ。3階にある会場は会議室みたいな小空間で、暖房が心地よくきいていた。これなら冬開催もありかもしれない。開始直後に訪れたものの、出店者の方々は全員集合というわけにはいかなかったようで、まだ6名ほどの箱しか出ていなかった。みなさんにご挨拶してから順番に本を見ていく。あうん堂さんのところで、興味のあった森山伸也『北緯66.6°』(本の雑誌社)¥1350をまず買う。これはあうん堂さんご推薦の本。この先、北欧を訪れる機会なんてあるのだろうか、と淡い夢を抱く。そのお隣には富山からお越しのひらすま書房さん。昼寝中ののび太くんがいいですね。箱にはあまり見かけないリトルマガジンがいつも販売されている。それらの雑誌についていろいろと説明していただいた。『自給自足』が1冊出ていて、結局買わなかったのだが、これはちょっと集めたい雑誌である。自給自足とという言葉にやはり淡い夢を抱いている。さらにそのお隣には超常連のでっぱさん。ここでは、シャーリイ・ジャクスン『異色作家短篇集⑫ くじ』(早川書房)¥400と中田耕治編『恐怖通信』(河出文庫)¥200の2冊を購入。後者は、つい先日『恐怖通信Ⅱ』を買ったところだったので、タイミングよく赤い方も手に入った。そうこうしているあいだにも、遅れてきた出店者の方々が本を並べはじめ、ちょっとずつにぎやかになっていく。すると、前回たくさん文庫を買わせてもらった怪奇幻想紳士がいらっしゃり、おもむろに隅っこの机に本を並べはじめられた。持ってこられた本の冊数は10冊にも満たないが、まったく予測不可能なラインナップに驚嘆するばかり。今回は創土社特集だったようで、分厚い『ホフマン全集』の端本などが並べられていた。何冊か手に取らせてもらう。『ホフマン全集』は緑色の函に入っていて、横尾忠則風のギラギラしたイラストが印象的。3冊置かれていたが、記念にそのうちの第3巻とグスタフ・マイリンク『緑の顔』を買うことにした。ともに500円。来た甲斐がありました。
[PR]

by anglophile | 2014-12-23 19:22 | 一箱古本市 | Comments(0)
2014年 12月 14日
雪降る午後
思ったほどの大雪にならず、なんだよ予報には「暴風雪」と書いてあったじゃないかあ、とちょっと落胆しながら、今朝は『名短篇 新潮創刊一〇〇周年記念 通巻一二〇〇号記念』(新潮社)に収められている川崎長太郎「ひかげ咲き」を読んだのだった。まさに「名短篇」の名にふさわしい短篇だった。

午後の遅い時間に、妻に頼まれ、灯油を調達しに出たはずだったが、そんな生活必需品はあとまわしにして、本屋に行ってしまう。「休日」と「外出」という条件が重なると、本を買いに行かずにはおれない。どうも優先順位の立て方がおかしい、とわかってはいるがコントロールができない。

川崎長太郎の文庫が先月出ていたはずなので、柿木畠のうつのみや本店に買いに行くことにする。いつも店前の駐車場に車を止めるのだが、今日は雪が降っていて駐車場の係のおじさんがいないので、そのままいつものスペースに止めさせてもらう。1階で別の購入予定本である諏訪哲史『偏愛蔵書室』(国書刊行会)を探すが見当たらない。他の大型書店には置いてなくて、うつのみやなら、と思ったが、ここにも置いてなかった。うう、残念。1階の隅にある国書刊行会スペース自体がなくなっていたのでむしろそのことのほうが残念。次に文庫を見に、エレベーターで2階へ。いろいろと見てまわって、お目当ての川崎長太郎『泡/裸木 川崎長太郎花街小説集』(講談社文芸文庫)と、その他に林望『増補 書藪巡歴』(ちくま文庫)と円城塔『バナナ剥きには最適の日々』(ハヤカワ文庫)も買うことにする。無論、3冊とも帯付である。『書藪巡歴』はどう考えてもおもしろそう。以前は新潮文庫に入っていたということだが知らなかったなあ。あと、ハヤカワ文庫のカバーデザインには垢抜けた感じがあって無視できないものがある。

c0213681_2345044.jpgこのあと、新竪に移ったらしいオヨヨ書林に行くつもりだったが、予定を変更して久しぶりにせせらぎさんに行ってみることにした。もう日は落ちている。店内に入っていき、せせらぎさんにご挨拶。何人かお客さんがいた。店内の棚の配置などが以前と少し変わっていて、前は入り口左のスペースにあった文庫棚が店内右奥にあった。その文庫棚で、未所持だった楠見朋彦『塚本邦雄の青春』(ウェッジ文庫)を見つける。500円だったが帯付だったので買うことにする。その横の外国文学棚には、『ユリイカ』のピンチョン特集号が300円であった。もう持っているので自制したが、昔なら買っていただろう。この中に収められているピンチョンがとある学生に宛てて書いた手紙(アフリカのホッテントット族に関する内容)はピンチョン関連の必読文献である。

さて、店内中央には以前はなかった本棚もあり、ペーパーバックとか古本関連本などが並べられていて、そこで古本アンテナが黒いハードカバーの本に反応した。取り出してみると、それは『書影でたどる関西の出版100 明治・大正・昭和の珍本稀書』(創元社)だった。ずっと前に善行堂で山本さんに見せてもらったことがあった。表紙が片側だけ貼り付けになっていて開きやすくなっているのだ。高価な本だから今まで購入できずにいた。やっぱり安くはないだろうなあと思って値札を見たら、予想を上回る安さに思わず「うおっ!」と驚きの小声を上げてしまった。したが、すぐにその理由がわかった。函欠ということもあるのだろうが、そういうことだったのかあ。ま、でも納得して購入することができた。ふんだんに掲載されている書影は見ていて飽きない。

帰り道、あやうく灯油を買い忘れるところだった。
[PR]

by anglophile | 2014-12-14 21:50 | 古本 | Comments(0)
2014年 12月 07日
今週を振り返る
c0213681_16312141.jpg金曜日は富山方面に用事があり、その帰りに高岡のブックオフに寄ってきた。夕方前より雪がかたまりになって降りはじめ、まだスノータイヤに交換していなかったものだから、帰れなくなるのではないかと心配した。高速は使わずに一般道をそろそろ帰ってきた。古本買わなきゃ大雪の前に帰れたのに。でも寄っちゃうんだよなあ。疲れた。今日は、午前中、西武緑地公園方面で仕事。昼過ぎに任務終了。その帰り道、ちょっとマックスバリュー横のブックオフ(略してMVBO)に寄った。以下、主にそれらの機会に買った本。すべて108円。

・中田耕治編 『恐怖通信Ⅱ』 (河出文庫)
・シオラン 『告白と呪詛』 (紀伊國屋書店)
・長田弘 『詩人であること』 (同時代ライブラリー)
・西脇順三郎 『あざみの衣』 (講談社文芸文庫)
・中島敦 『斗南先生/南島譚』 (講談社文芸文庫)
・川村二郎 『白山の水 鏡花をめぐる』 (講談社文芸文庫)
・大瀧啓裕編 『怪奇幻想小説シリーズ ウィアード③④』 (青心社)
・川上澄生 『川上澄生全集①⑤⑥⑦⑧⑩⑫⑬⑭』 (中公文庫)

高岡で買った『ウィアード』2冊は掘り出し物。1巻と2巻は残念ながらなかった模様。MVBOで買った『川上澄生全集』もうれしい買い物。これもブックオフでははじめて見た。残念ながら全部は揃っていなかったが、胸ときめいた一瞬だった。
[PR]

by anglophile | 2014-12-07 16:56 | 古本県外遠征 | Comments(0)
2014年 12月 03日
本が読みたい。
c0213681_215071.jpg
北陸のフリーペーパー『BonNo』の最新号が本の特集をしている。北陸3県にある図書館、新刊書店、ブックカフェ、古書店が紹介されていたり、おすすめの本を紹介するコラムが載っていたり。実は、そのコラムの隅っこの方で私もお気に入りの本を紹介などしております。ご笑覧くださいませ。

『BonNo』というフリーペーパーはこれまで何度か見かけたことがあったけども、ちゃんと読んだことがなかった。実のところ、フリーペーパーというもの自体にあまり注意を払ってこなかったのだけど、探せばいろいろと楽しいものがあるのだなあ。『BonNo』のバックナンバーを見ても、これまでけっこう面白そうな特集が組まれてきたようで、こまめにチェックしておくべきだったと少し後悔している。
[PR]

by anglophile | 2014-12-03 23:14 | 読書 | Comments(0)