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古本万歩計 Of what is lost, all I wish to recover is the daily availability of my writing, lines capable of grasping me by the hair and lifting me up when I'm at the end of my strength. - Roberto Bolano

古本とデザート

一月二十日、日曜日。十三時怠惰起床。天気は晴れ。妻と息子はすでに外出中。朝食は小型三日月麺麭三個と珈琲。十四時過ぎ、妻帰宅。息子は近くのカメクラにてカードバトルとのこと。妻、別の用事があり再度外出。十五時に自分が息子をカメクラに迎えに行く。息子はもう一試合残っているということで、自分は車中にて待機。平石貴樹『アメリカ文学史』(松柏社)を読み継ぐ。現在、五十頁を過ぎたところ。一頁の活字量が多いのでなかなか進まないが、学ぶことは多い。例えば、
 ...日本であれば、作家が外国の作家とおなじ市場で競争する、という問題は生じないが、アメリカは、読者はイギリスの本を読むことができるだけでなく、そうすることに慣れてもいたので、たとえばクーパーは、スコットと、いわばまともに勝負しなければならなかった。しかも、当時アメリカは、イギリスをふくむ国際社会に対して、国際著作権協定を締結していなかったから、アメリカの出版社は、たとえばスコットの小説を、スコットにもイギリスの出版社にも印税を支払わず、自由に複製--いわゆる海賊版を刊行し、販売することができた。いっぽう、自国の著者の作品を出版する場合には、印税が課せられたので、けっきょくアメリカの出版社にとっては、自国の無名の著者の作品を、印税を払って出版するか、それともイギリスの、すでに名のとおった著者の作品を、印税無料で出版するか、という不公平な二者択一が突きつけられ、当然ながら大多数は、イギリス作品の海賊版をつくるほうをえらんだ(一八三〇~四〇年代、スコットに代わって人気を博した作家はディケンズだった)。
 アメリカが国際著作権協定を結んだのは、一八九一年であるので、作家たちの不遇は、ほぼ一九世紀のあいだ中つづいた。作家たちはこの間、出版の機会をつかみ、利益を確保するために、さまざまな努力を重ねた。その努力のひとつは、英米両国の出版社と個別に同時に契約することによって、せめて自作の海賊版を防止することだった。クーパーは、両国同時契約をおこなったアメリカ最初の作家にもなった。(四十一頁)
英米両国で同じ本が出版されるのは当たり前だと思っていたが、どうやら上のような事情が元々あったらしい。なぁるほど。引用文中の「クーパー」とはジェイムズ・フェニモア・クーパー、「スコット」はウォルター・スコットのこと。百六十年前のアメリカの文学事情を反芻していると、息子がバトルを終えて車に戻ってきた。三勝二敗と勝ち越したようで上機嫌。時間は午後四時。陽差しがオレンジ色になってきた。日曜日午後四時頃のオレンジ色は切ない。家に戻るには中途半端な時間なので、息子の許可を得てから、香林坊に向かうことにする。久しぶりにせせらぎさんに行ってみたくなった。

近くの小銭制駐車場に車をとめる。お店に入っていくと、せせらぎさんがいらっしゃりご挨拶申し上げる。店内は数ヶ月前に来たときと少し雰囲気が変わっていた。以前は店内左側の一段高くなったスペースには未整理本の段ボールが置かれていたはずだが、そこも整理されて文庫と新書の棚が移動してきていた。また、店内奥の文学棚にも本が補充されていて、前回訪問時にはなかった小林信彦の単行本群や国書刊行会の世界幻想文学大系やフランク・ノリス『オクトパス』などが並んでいた。精力的に仕入れをされているのだろうとお見受けした。おかげで、二十分だけのつもりが、結局一時間ほどいてしまった。買った本は以下の四冊。

・戸板康二 『泣きどころ人物誌』 (文春文庫) ¥100
・ギッシング 『ヘンリ・ライクロフトの手記』 (角川文庫) ¥100
・ギッシング 『南イタリア周遊記』 (岩波文庫) ¥200
・近藤健児 『絶版文庫交響楽』 (青弓社) ¥500

何気なく買ったギッシングの『ヘンリ・ライクロフト』は、岩波文庫版が有名だと思うが、これは角川文庫版だった。よく見たら、題名も『私記』ではなく『手記』。ちょっと珍しいかも。カバーが付く以前の角川文庫の赤い横線群にはときめくことが多い。『絶版文庫交響楽』は海外文学の文庫探求の書。著者は『ニッポン文庫大全』にも寄稿されている方らしい。蒐集範囲が戦前の文庫にまで及んでおり、相当年季が入っている。読書量にも脱帽である。モームやハクスリィやヘンリー・ジェイムズらのどんな文庫がかつて出ていたのかがわかり誠に興味深い。どの本をいつどこでいくらで買ったかということもときどき書かれていて、古本心に響いてくる。絶版文庫関連の本はいろいろとあると思うが、この本はかなり趣味に合っている。もう少し掲載写真が多ければなおよいのだが。昨年出た『少年少女昭和ミステリ美術館 表紙でみるジュニア・ミステリの世界』(平凡社)を真似して、例えば『書影でたどる海外文学絶版文庫』(どこかで聞いたことがあるような題名?)とか『フルカラー海外文学絶版文庫の光と影』(帯は付けたままのもの【下図①】と外したときのもの【同②】を別々で)というのを出してほしい。七千八百円(税抜)までなら妻に内緒で即決で買える。それ以上は要相談。

<図①>
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<図②>
古本とデザート_c0213681_5233046.jpg

「新しき文庫の時代」が到来しそうなところで、お店を後にする。さて、せっかく武蔵界隈に来たので、「フルーツパーラーむらはた」に寄ることを思いついた。ただし時間はすでに午後五時。洋梨ケーキはもう売り切れになっている可能性が高いが、せせらぎさんからは近いので、とりあえず行ってみることにする。すると、洋梨ケーキはちょうど三個残っていた。運が良かった。全部買う。これにて本日は全日程終了かと思ったが、せっかく武蔵が辻に来たのならば、これまた久しぶりに近八書房にも寄ってみようということで、ちょっとだけ入り口の文庫コーナーを見に行ってきた。一冊だけ購入。

・獅子文六 『但馬太郎治伝』 (講談社文芸文庫) ¥800

家に帰ってから息子と食べた洋梨ケーキはやはり絶品であった。
by anglophile | 2012-01-24 05:45 | 古本 | Comments(0)